チたかと思うと、顔から火が出るような気持がした。誰だったか知らないが自分の耳近くにやって来て、
「うふ……」
と冷かすように吹き出したらしい気配《けはい》を政宗は感じた。
逆上《のぼ》せ易いこの茶人はかっとなってしまった。彼は鷲掴みに茶碗を片手にひっ掴んだかと思うと、いきなりそれを庭石目がけて叩きつけた。茶碗はけたたましい音を立てて、粉微塵に砕け散った。
「は、は、は、は……」
政宗は声高く笑った。彼はその瞬間、金二千両の天目茶碗を失った代りに、自分の心の落着きをしかと取り返すことが出来たように思って、昂然と胸を反らした。
3
泉州小泉の城主片桐貞昌は、茶道石州流の開祖として、船越吉勝、多賀左近と合せて、その頃の三宗匠と称えられた名誉の茶人であった。
貞昌があるとき、海道筋に旅をして宿屋に泊ったことがあった。ちょうど冬のことだったので、宿屋の主人《あるじ》は夜長の心遣いから、溺器《しびん》を室の片隅に持運んで来た。それは一風変った形をした陶器だったが、物の鑑定《めきき》にたけた貞昌の眼は、それを見遁さなかった。彼は主人に言いつけて、器を綺麗に洗い濯がせた後、あらた
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