る客人にも、座敷に通る前に、一々手を洗わせなければ承知しなかったものだ。
 あるとき雲林の家に、客が一人泊ったことがあった。主人は自分が手にかけて綺麗に掃除をした庭の植込みが、そんなことに無関心な客人によって、汚されはしまいかとびくびくものでいた。雲林は人間の臭みが自然に沁み込むのをおそれて、自分の描く山水の画幅には、どんなことがあっても、人物を描き添えないというほどな泉石好きだった。
 主人は夜が更けて、客が咳き込むのを聞いた。
「きっとそこらに唾を吐き散らしているかも知れない。」
 そう思うと、この清潔好きな画家は、気に懸ってろくろく睡るわけにゆかなかった。朝になると、彼は早速召使を叩き起して、客が窓外に吐き捨てたらしい唾の痕を捜させた。
 召使はそんなことには馴れていた。彼は露に湿った一枚の桐の葉を折って来た。
「見つかりました、旦那さま。葉の面がこんなに濡れております。」
 雲林は顔をしかめた。そしてその一枚の葉を捨てさせに、遠い村境まで召使を急がせた。

     2

 またあるとき、倪雲林の母が大病にかかったことがあった。雲林は出来ることなら、医者というものは招きたくな
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