ヌともなく歩いていると、そそけた灌木にとり囲まれた池のほとりに出て来た。池にはところどころに細かい水草が浮いていて、片眼で笑うような午過ぎの日ざしが一杯に落ちかかっている。
 草の路に沿うて池のまわりを歩いていると、ふと菱の実が食べたくなって来た。
 何の故ともわからない。
 支那湖州の菱湖鎮の菱は、味がうまいので聞えたもので、民船であの辺を旅をすると、舷を叩いてよくそれを売りに来るそうだが、私はまだそんなうまい菱の実を味わったことがない。私が少年のころ食べ馴れたのは、自分たちが小舟に乗って、村はずれの池から採って来た普通《ただ》の菱の実で、取り立てて言うほど味のいいものではなかったが、いかつい角を生《はや》した、その堅苦しい恰好がおもしろい上に、歯で噛むと、何とも譬えようのない仄かな匂が、ぷんと歯ぐきに沁み透ったものだ。
 秋が来ると、私がときどき菱の実を思い出すのも、ひとえにその匂をなつかしむからのことだ。
 一わたり池のおもてをあちこちと見わたしても、見覚えのある菱の葉はそこらに見つからなかった。
 ふと小蝦か魚かの白く水の上に跳ねあがるのが見えて、泡のつぶやきのような微かな音が
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