訪。夫人は信神の念のあつい妙好人である。
 午すぎの室のうちは、息苦しいほどに熱かった。私は夫人と差向いに四方山の話をしているうちに、夫人が時々それとなく窓の方へ眼をやって、いかにも楽しそうに、
「どうもありがとうございます。」
と、口のなかで小声に言って、ちょっと会釈しているのに気づいた。それが私の談話に対するうけ答えでないのはいうまでもないこと、どうかすると、私の存在をも忘れさせるような、眼に見えない第三者が窓越しに立っていて、それに対する挨拶とも見えるようで、何だかちょっと不気味だった。私は訊いてみた。
「何を言ってらっしゃるの。さっきから。」
「お礼を申し上げてるんですわ。」夫人は小娘のようにちょっと含羞んだ。「あまりお涼しい風が、吹き込んでまいりますもんですから。」
「そんなことまで一々言葉に出して、お礼を言わなければならないんですか。黙って感謝していてもよかりそうなものだのに。」
「いいえ。私達の神様は、人間の感謝が歓喜《よろこび》の声となって、大げさに告白されるのを、大層およろこびになりますよ。」夫人はきっぱりと言った。「黙っていたのでは、かえってお気に召さないんです。
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