なさからで、蓑虫がひょくりひょくりと円い頭をふり立てているのも、同じ所在なさやるせなさの気持からだ。虫は春からこの方、ずっと青葉に食べ飽きて、今はもう秋冬の長い静かな眠りを待つのみの身の上だ。ところが、気紛れな秋は、この小さな虫に順調な安眠を与えようとはしないで、時ももう十月半ばだというのに、どうかすると夏のような日光の直射と、晴れきった空の藍色とで、虫の好奇心を誘惑しようとする。木の葉を食うにはもう遅すぎ、ぐっすり寝込むにはまだ早過ぎる中途半端な今の「出来心」を思うと、虫は退屈しのぎの所在なさから、小坊主のような円い頭をひょくりひょくりと振ってでもいるより外に仕方がなかったのだ。
3
むかしの人は、虫と名のつくものは、どんなものでも歌をうたうものと思っていたらしく、蚯蚓《みみず》や蓑虫をも鳴く虫の仲間に数え入れて、なかにも蓑虫は
「父こいし。父こいし。……」
と親を慕って鳴くのが哀れだといい伝えられているが、ほんとうのことをいうと、蚯蚓と蓑虫とは性来のむっつりやで、今日まで一度だって歌などうたったことはないはずだ。蚯蚓が詩人と間違えられたのは、たまさかその巣に潜り込ん
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