ネ生物のような気がして、尻っ尾のないのが不思議なくらいのものだ。
 土だらけの里芋の皮を削り落そうとするとき、どうかすると指先が痒くてたまらなくなるのは、玉葱や辣薤《らっきょう》を手にするときに、眼のうちが急に痛くなるのと同じように、土から生れたものの無言の皮肉である。
 今から二十四、五年前に、私は徳富健次郎氏と連れ立って、大阪道頓堀の戎橋の上を通っていたことがあった。大跨に二、三歩先を歩いていた徳富氏は、急に立ちとまって背後をふり返った。
「薄田さん。あなたお弟子をお持ちですか。」
「弟子――そんなものは持ちませんよ。」
 その頃やっと二十五、六だった私に、弟子などあろうはずがなかった。
「それで安心しました。どうかなるべく弟子なぞもたないようにして下さい。子芋が出来ると、とかく親芋の味がまずくなるものですからね。」
 徳富氏はこう言って、またすたすたと歩き出した。
 私はその後、それと気づかないでえぐ芋を口に含んだときには、すぐに徳富氏のこの言葉を思い出して、
「青道心《あおどうしん》の小坊主め。お前一人は親の味をよう盗まなかったのか。気の毒な奴だな。」
と、苦笑いさせられたこと
前へ 次へ
全242ページ中153ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
薄田 泣菫 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング