рェ嫌がったって、力ずくで接吻することくらい出来るじゃありませんか。」
「そんなことなんか、僕考えてみたこともありません。」
男は険しい眼つきで、きっと女の顔を睨んだが、ふとその紅い唇が眼につくと、何だか気の利いたことの言える唇だなと思った。
二人は連立って、薄暗い樹蔭の小路に入って往った。人通りの全く絶えたあたりに来ると、男は女が言ったように、杖を地べたに突きさし、それに山羊を繋ぎ、背の水桶をおろして、鶏をそのなかに伏せた。そして女の肩を捉えて、無理強いに接吻したということだ。
2
この場合、若い男は初めのうちは何も知らなかったのだが、女の敏感な警戒性が思わず洩した一言に暗示せられて、それを実行に移したのである。善行にせよ、悪業にせよ、すべて男の勇敢な実行の背後には、得てしてこうした婦人の暗示が隠れているものだ。
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詩人の喧騒
支那の西湖に臨んで社廟が一つ立っている。廟の下手は湖水に漁獲《すなどり》をする小舟の多くが船がかりするところで、うすら寒い秋の夜などになると、篷《とま》のなかから貧しい漁師達が寝そびれた紛れの低い船歌を聞くことがよ
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