チたのだ。
エルマン氏は、禿げ上った前額に滲み出る汗を無雑作に手帛で拭きとりながら、ぶっきらぼうに答えた。
「ここは音楽会をする場所じゃないね。大砲をうつところだよ。大砲をね……」
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慈善家
男というものは、郵便切手を一枚買うのにも、同じ事なら美しい女から買いたがるものなのだ。――故ウィルソンの女婿 Mcadoo 氏はよくこの事実を知っていた。
あるとき Mcadoo 氏が、自分の関係しているある慈善事業のために、慈善市《バザア》を催したことがあった。氏はその売子のなかに、幾人かの美しい女優を交えておくのを忘れなかった。
その日になって、氏が会場の入口を入ろうとすると、そこには紀念の花束を売りつけようとして、四、五人の若い女たちが客を待っていた。そのなかに一人ずばぬけて美しい女優が交っていたが、その女はかねて顔馴染な Mcadoo 氏を見ると、顔一杯に愛嬌笑いを見せながら、いち早く歩み寄って来た。そしてきゃしゃな指さきに露の滴るような花束をとり上げて、
「あなた、お一つどうぞ……」
と、押しつけようとした。
Mcadoo 氏はあぶなくそれを受け取ろうと
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