てみたまえ。爺さん、おっ魂消《たまげ》て死ぬかも知れないぞ。あれは御覧の通りの善人で、唯もう仕事大事に勤めているんだからね。」
2
アメリカの俳優として聞えたJoe Jefferson が、あるときデトロイトの銀行で、持って来た小切手の支払を受けようとしたことがあった。
出納係の若い男は、小切手から離した眼を、窓の外に立っている男に移して、じろじろとその顔に見入った。
「失礼ですが、あなたが Jefferson さん御当人だとおっしゃるのは。」
俳優はそれを聞くと、ちょっと眼をぱちくりさせたが、急に舞台に立っている折のように声に抑揚《めりはり》をつけて、
“If my leedle dog Schneider was only here, he'd know me.”
と流れるように言った。
「いや、間違いはございません。」
出納係は喜ばしそうに叫んだ。そして小切手はすぐに正金に換えられた。
3
明の詩画家許友は、ぶくぶくに肥った背低《せひく》で、身体中に毛といっては一本も生えていなかった男だが、人が訪ねて来ても、それに答礼するでもなく、そんな交際
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