与える大人の助言としては、随分思い切ったことをいったものだな。」
Brooks はこの幼い珍客を、自分の書斎に案内することを忘れなかった。そこには世間の評判通りに、沢山の書物がぎっしり書棚に詰っていた。
「ここにある書物には、それぞれ書入がしてあって、中にはそのために頁が真黒になっているのもある。世間にはこの書入を嫌がる人もあるようだが、しかし、書物が俺に話しかけるのに、俺の方で返事をしないわけに往かんじゃないか。」
こういって、牧師は書棚から一冊のバイブルを引出して見せた。それは使い古して、表紙などくたくたになっている本だった。
「俺のところにはバイブルは幾冊もあるよ。説教用、儀式用とそれぞれ別になっているが、この本は俺の自家用というわけさ。見なさい、こんなに書入がしてある。これはみんな使徒パウロと俺との議論だよ。随分はげしい議論だったが……さあ、どちらが勝ったか、それは俺にもわからない。」
少年の眼が、どうかすると細々した書入よりも、夥しい書棚に牽きつけられようとするのを見てとった Brooks は、
「お前さんも、本が好きだと見えるな。何ならボストンへやって来たときには、い
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