顔色を変へました。誰にも隠してゐたことですが、実をいふとOさんは亭主持ちの体でした。しかもその亭主といふのは、自分の肉親の叔父で、Oさんは乱暴なこの叔父さんのために自分の童貞を汚され、おまけに子供まで持たせられてゐたのでした。思へば思ふほど、自分の一生を蹂躙《じうりん》した男性といふものが憎くて憎くてたまらず、どうかしてかうした不倫の関係から遁れて、女一人で自ら活き自ら教育したいと思つて誰にも知らさず、これまで住んでゐた朝鮮の家を振り捨てて大阪に身を寄せてゐたのでした。Oさんはこんな身体でしたから、人目に子持だなと気づかれるのが恐ろしさに、寮に入つてからまる二年といふもの、女友達がどんなに誘つても、何とかかとか辞柄《じへい》を設けて、一度だつて一緒にお湯には入らなかつたさうです。Oさんは平尾氏の前に、隠さず自分の過去を打ち明けました。
「ただいま申し上げましたやうな次第ですから、私は何をさしおいても、まづ独立するために、私自身を教育しなければなりません。お情けを受けるか受けないかは、その後のことです」
ときつぱり言ひきりましたが、それでも物質的に平尾氏の扶助を受けることになつて、女子大
前へ
次へ
全9ページ中3ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
薄田 泣菫 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング