不服を唱へました。そして入れ違ひになつてゐるその破片を、も一度正しく継ぎ直したなら、茶入はもつと見栄えがするやうになるだらうと考へました。
安知は思ひあまつて、自分の茶道の師範役である小堀遠州に相談を持ちかけました。
遠州は雲山を取り上げて、仔細に見直しました。
「京極侯のお言葉には、いかにももつともな節がある。さりながら……」
遠州はその瞬間、
「利休が結構至極ぢやと言つたさうな」
といふ世間の言伝へを思ひ出しました。そして腑に落ちない節はありながら、古い宗匠の言ひ遺した言葉は、そのままに立てておいたはうが無難であると思ひました。
「この茶入は、継ぎ目の合はぬところこそ、利休にも面白がられ、世間にも取り囃《はや》されたので、どうかこのまま大事に残しおかるるやうに」
遠州はかう言つて返事をしました。
五
遠州は間もなく亡くなりました。
寂しい、灰色の死の国をさまよつてゐるうちに、遠州はゆくりなくも大樹のかげで一人の老人を見かけました。粒桐《つぶきり》の紋の小袖に八徳《はつとく》を着、角《つの》頭巾を右へなげ、尻切れをはき、杖をついて遠見をしてゐるらしいそ
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