つたものらしい。櫟は月曜日の午前、魂の張切つた一瞬に産み落したものらしい。竹柏《なぎ》は夕暮の歌であらう。馬酔木は折節の独り言かも知れぬ。いづれも持前の性分を思ふが儘に見せて、側目も振らず、すくすくと衝立つてゐる。大空は微笑を湛へて、額の上にひろがつてゐる。第一の光明はわが掌《たなごころ》にといつた風に、いづれも骨太の腕をさし伸べてゐる。地に生れて天を望むといふのは、思ふだに痛ましい。痛ましいに違ひは無いが、その昔嫩葉を芽ぐんだ日より、もつて産れた各がじしの宿命である。木はその宿命を楽んで自らの代の終るまでは、ただの一日たりとも、その努力を休めぬ。時は皐月の半ば、古沼の藻も花をかざらうといふこの頃である。薄曇りした蒸暑い正午過ぎの温気に葉は葉の営みをし、根は根のいそしみをし、幹は幹のつとめを励む。まことに烈しい生活の有様である。
 大杉のひとつがいふ。
「余りに高くなり過ぎて、どうにも心寂しくてならない。それにあの雲の襞がうるさい。電光など落ちて来るといいのに。」
 若い馬酔木がいふ。
「背低なのも厭になつた。土の香が鼻につき過ぎる。きのふを忘れる術は無いものか知ら。」
 老樹の櫟がつ
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