てきた喜平のほまれを思ふと、それが羨ましくなりました。自分がその道の巧者と家来の幾人かを使つて、大袈裟に国中を狩りつくしても、なほ見ることができなかつたものを、喜平は自分の眼ひとつで安々と捜《さぐ》り出してゐる。それは悪戯《いたづら》好きな運命が喜平をそこに連れ出したにもよることだが、いくら運命の連れ出しがあつたところで、喜平にそれを掴むだけの力がなかつたなら、どうすることもできなかつたはずである。よし佐渡守が言つたやうに、喜平にそんな力はない、ほんのまぐれ当りに当つたに過ぎないにしても、山深い一軒茶屋からこんな名器を見つけ出して、それと一緒に、後の世までも名を謳《うた》はれるといふのは、特別に運命に恵まれた男といつて差支へないはずである。利休七哲の随一人として、三十七万石の小倉城主として、自分はただこの名器の肩の張り、胴の照りといつたやうなものを見て味はふ、いはゆる観賞家の一人として踏み止まらなければならないのに比べて、喜平はこの名器の唯一の発見者である誉れをほしいままにしてゐる。そんなことが忍び得られるだらうか。
「仲間風情にしてやられて……」
 さう思ふと、忠興は嫉妬に似た気持を
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