のみではありません。名器の発見には、自分の眼がねひとつで、凡器のなかから藝術品を選りぬき、「実用」から「美」を取り出すといふ楽しみがありました。この富と楽しみとを得たいために、金森出雲守は小壺狩といふことを始めました。
松井佐渡の主人細川忠興は、金森出雲守が山深いその領地から、世にも珍しい名器を掘り出したことを聞いて、もうぢつとしてゐられなくなりました。で、急に思ひ立つて自分でも、所領豊後国で小壺狩を催しました。
しかし、案外なことには、豊後からは何ひとつ秀れた器は発見せられませんでした。狩り集めた多くのなかから、その筋のものがこれならと選りぬいたものも、忠興の眼からしては、つまらない凡器に過ぎませんでした。忠興は自分の前に行儀よく列べられた、数多い小壺のどれを見ても、おろかしく無表情なのに驚きました。
「おれは、今になつて初めて、わが所領が出雲守の領国に比べて、遥かに大きいことを知つたぞ。さもないと、かやうに沢山な凡器が、かくまはれてゐるはずはないのぢや」
茶人としての失望を感じながらも、国守としての態度を失はなかつた、自分たちの主人の言葉に、皆は平和な笑ひを洩らしました。その
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