小壺狩
薄田泣菫
−−−−
【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)槻《つき》の木《き》へ
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)細川|忠興《ただおき》の
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)[#地から1字上げ]〔昭和2年刊『猫の微笑』〕
−−−−
一
彦山村から槻《つき》の木《き》へ抜ける薬師峠の山路に沿うて、古ぼけた一軒茶屋が立つてゐます。その店さきに腰を下ろして休んでゐるのは、松井佐渡守の仲間《ちゆうげん》喜平でした。松井佐渡守といふのは、当国小倉の城主細川|忠興《ただおき》の老臣として聞えた人でした。
晴れた初夏の昼過ぎて、新鮮な若葉の山は、明るい日光をうけて陽気に笑つてゐました。先刻から軒さきに突つ立つた高い木の枝にとまつて、鈴を振るやうな美い声で、ちんからころりと鳴いてゐた小鳥が、どこへともなく去つてしまつた後は、あたりはひつそりとして乾いた山路に落ちかかつたそこらの立樹の影が、地べたを這ふ音さへ聞かれさうな日でした。昼の仕度をすませた喜平は、何だかまだ物足りなささうな様子で、貧しい茶屋の店さ
次へ
全21ページ中1ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
薄田 泣菫 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング