つた晩に、よく鯰切りに出かけて往つた事を思ひ出しました。手頃の竹竿の端に草刈り鎌を結びつけたのを片手に、今一つの手には松明を持つて出かけるのです。くらがりの小川の岸づたひに、松明をふりふり辿つて往くと、火影を慕つた大鯰が偶にぱくりと水音をさせて、その大きな頭を流の上にもちあげます。と見ると、やにはに片手に持つた長柄の草刈鎌をふりかざして、その頭をめがけてはつしと打ちおろすのです。川狩としては少し残酷なやうですが、私たちの小供の頃は梅雨の雨が降り続いて、それが下り闇の夜にでもなると、誰がいひ出すともなく、
「鯰切りにでも出かけたいなあ。」
 といふことになつて、二人三人小さな蓑笠を着て、大人の尻についてぼそぼそ出かけたものです。
 いつでしたか、幸田露伴氏が京都大学の講師をしてゐられる頃、お目にかかつていろんな話のなかに、この鯰切りのことを話した事がありました。幸田氏は名高い魚釣の名人ですが、私の話を聞くと、不審さうに小首を傾げて、
「さうですか。しかし鯰は生れつきひどい臆病ものですから、松明のあかりを見たら、尻ごみこそすれ、水の上に浮き上つて来る筈はないんですがね。」
 といはれました
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