念ずる思いの、いつか心の裏《うち》を抜け出でて、かくの通り[#「かくの通り」に傍点]と盾の表にあらわれるのであろう。かくありて後[#「かくありて後」に傍点]と、あらぬ礎《いしずえ》を一度び築ける上には、そら事を重ねて、そのそら事の未来さえも想像せねばやまぬ。
重ね上げたる空想は、また崩れる。児戯に積む小石の塔を蹴《け》返《かえ》す時の如くに崩れる。崩れたるあとのわれに帰りて見れば、ランスロットはあらぬ。気を狂いてカメロットの遠きに走れる人の、わが傍《そば》にあるべき所謂《いわれ》はなし。離るるとも、誓《ちかい》さえ渝《かわ》らずば、千里を繋ぐ牽《ひ》き綱《つな》もあろう。ランスロットとわれは何を誓える? エレーンの眼には涙が溢《あふ》れる。
涙の中にまた思い返す。ランスロットこそ誓わざれ。一人誓えるわれの渝るべくもあらず。二人の中に成り立つをのみ誓とはいわじ。われとわが心にちぎるも誓には洩《も》れず。この誓だに破らずばと思い詰める。エレーンの頬の色は褪《あ》せる。
死ぬ事の恐しきにあらず、死したる後にランスロットに逢いがたきを恐るる。去れどこの世にての逢いがたきに比ぶれば、未来に
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