。女は領《えり》を延ばして盾に描ける模様を確《しか》と見分けようとする体《てい》であったが、かの騎士は何の会釈もなくこの鉄鏡を突き破って通り抜ける勢《いきおい》で、いよいよ目の前に近づいた時、女は思わず梭《ひ》を抛《な》げて、鏡に向って高くランスロットと叫んだ。ランスロットは兜《かぶと》の廂《ひさし》の下より耀《かがや》く眼を放って、シャロットの高き台《うてな》を見上げる。爛々《らんらん》たる騎士の眼と、針を束《つか》ねたる如き女の鋭どき眼とは鏡の裡《うち》にてはたと出合った。この時シャロットの女は再び「サー・ランスロット」と叫んで、忽ち窓の傍《そば》に馳《か》け寄って蒼《あお》き顔を半ば世の中に突き出《いだ》す。人と馬とは、高き台の下を、遠きに去る地震の如くに馳け抜ける。
ぴちりと音がして皓々《こうこう》たる鏡は忽ち真二つに割れる。割れたる面《おもて》は再びぴちぴちと氷を砕くが如く粉《こな》微塵《みじん》になって室《しつ》の中に飛ぶ。七巻《ななまき》八巻《やまき》織りかけたる布帛《きぬ》はふつふつと切れて風なきに鉄片と共に舞い上る。紅の糸、緑の糸、黄の糸、紫の糸はほつれ、千切《ちぎ
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