の如く、ギニヴィアは車夫の情婦のような感じがある。この一点だけでも書き直す必要は充分あると思う。テニソンの『アイジルス』は優麗都雅の点において古今の雄篇たるのみならず性格の描写においても十九世紀の人間を古代の舞台に躍《おど》らせるようなかきぶりであるから、かかる短篇を草するには大《おおい》に参考すべき長詩であるはいうまでもない。元来なら記憶を新たにするため一応読み返すはずであるが、読むと冥々のうちに真似《まね》がしたくなるからやめた。
一 夢
百、二百、簇《むら》がる騎士は数をつくして北の方《かた》なる試合へと急げば、石に古《ふ》りたるカメロットの館《やかた》には、ただ王妃ギニヴィアの長く牽《ひ》く衣《ころも》の裾《すそ》の響《ひびき》のみ残る。
薄紅《うすくれない》の一枚をむざとばかりに肩より投げ懸けて、白き二の腕さえ明らさまなるに、裳《もすそ》のみは軽《かろ》く捌《さば》く珠《たま》の履《くつ》をつつみて、なお余りあるを後ろざまに石階の二級に垂れて登る。登り詰めたる階《きざはし》の正面には大いなる花を鈍色《にびいろ》の奥に織り込める戸帳《とばり》が、人なきをかこち
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