も長いから少々削るかも知れない。是も不平を云はずに我慢してくれ玉へ 以上
        四月十四日夜
[#地から9字上げ]金
     三重吉樣


          三四六
 明治三十九年五月三日 午前八時―九時 本郷區駒込千駄木町五十七番地より廣島市江波村築島内鈴木三重吉へ [はがき]
 寺田寅彦が千鳥をほめて好男子萬歳とかいて來た。四方太が手紙をよこして四方太抔は到底及ばない名文である傑作であると申して來た。僕も是で鼻が高い。あれにケチをつけた虚子は馬鹿と宣告してしまつた。 以上

          三五〇
 明治三十九年五月十六日 午前八時―九時 本郷區駒込千駄木町五十七番地より廣島市猿樂町鈴木三重吉へ [はがき]
 拜啓寫眞は先日中川君から屆けてくれました。難有う。あの寫眞は大理石の像の樣には見えない。幽靈の樣だ。君の顏や咽喉の所があまりやせて居るせゐだらう。是も全く十七八の別嬪の祟と思ふ御用心

          三五七
 明治三十九年五月二十六日 午後三時―四時 本郷區駒込千駄木町五十七番地より廣島市猿樂町鈴木三重吉へ
 拜啓漾虚集が出來ました一部あげます。諸々[#「々」に「原」の注記]方々に誤字があり誤植がある樣だから見當つたら教へて頂戴
 人間の價値は何かやつて見ないとどの位あるか分らない。君どうぞ勉強してやつてくれ玉へ。
 然し世の中には駄目な事が分り切つて居ても眼が見えないのでうん/\やつてる奴がある。そんなものは教へてやつても説諭してやつても分りつこない。矢張自分が斃れる迄やつて念晴らしが出來ないと氣が濟まんものである。勝手に覺りがつく迄やらせるがいゝが、はたから見ると憫然なものだ。是は此間中からたつた一人で感じて居る事だが誰にも云はない。然し文藝上の事でも何でもない。
 君にやり玉へといふのは文學の事だ自分で何か作つて見ないとどの位作れるものか自身にもわからない。いくら作つてもそのつぎの自分はどんな風にあらはれるか决して分るものでないから君も千鳥のあとに萬鳥でも億鳥でも大にかき給はん事を希望する。
 僕も漾虚集丈でつきた譯でもないから是から又何ぞかく積りで居る。 以上
        五月二十六日
[#地から4字上げ]夏目金之助
     鈴木三重吉君
[#ここから1字下げ]
 先日來卒業論文を漸く讀み了つた。中川のが一番えらい。あの人は勉強すると今に大學の教師として僕抔よりも遙かに適任者にない[#「い」に「〔る〕」の注記]。しかも生意氣な所が毫もない。まことにゆかしい人である。只氣が弱いのが弱點である。
[#ここで字下げ終わり]

          三六三
 明治三十九年六月七日 (以下不明) 本郷區駒込千駄木町五十七番地より廣島市猿樂町鈴木三重吉へ
 昨夜君の所へ手紙をかいた處今朝君のを受けとつたから書き直す原稿料は遠慮なく御受取可然。小生抔は始めからあてにして原稿をかきます
 漾虚集の誤字誤植御親切に御教示を蒙り難有候。實は僕も訂正の積で一度よんで誤の多いので驚ろいた位人が見たら定めし見苦しき事なるべし御蔭にて僕の見落したる分を大分直す事が出來て結構だ。どうか序にあとも教へて下さい
 君は九月上京の事と思ふ神經衰弱は全快の事なるべく結構に候然し現下の如き愚なる間違つたる世の中には正しき人でありさへすれば必ず神經衰弱になる事と存候。是から人に逢ふ度に君は神經衰弱かときいて然りと答へたら普通の徳義心ある人間と定める事に致さうと思つてゐる
 今の世に神經衰弱に罹らぬ奴は金持ちの魯鈍ものか、無教育の無良心の徒か左らずば、二十世紀の輕薄に滿足するひやうろく玉に候。
 もし死ぬならば神經衰弱で死んだら名譽だらうと思ふ。時があつたら神經衰弱論を草して天下の犬どもに犬である事を自覺させてやりたいと思ふ。
 大分あつた[#「た」に「〔く〕」の注記]なつた。[#注記の「く」は底本では欠落]拙宅疊替なり。書齋をかへる時は大騷ぎ中川先生と今一人を手傳にたのみたいと思ふ 艸々不一
        六月六日
[#地から9字上げ]金
     三重吉樣

          三六六
 明治三十九年六月十九日 午後六時―七時 本郷區駒込千駄木町五十七番地より廣島市猿樂町鈴木三重吉へ [はがき]
 漾虚集の誤植御報知難有候三版には大分正さねばならぬ。
 神經衰弱論をかゝうと思つて居る。僕の結論によると英國人が神經衰弱で第一番に滅亡すると云ふのだが名論だらう。いづれ出たら讀んでくれ玉へ

          三八九
 明治三十九年八月十二日 午後十一時―十二時 本郷區駒込千駄木町五十七番地より山口縣玖珂郡由宇村三國屋鈴木三重吉へ [はがき]
 君は一人で大きな屋敷に居るよし。御大名の樣でよからうと思ふ。僕例の如く多忙長い
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