whir!
この全章を訳そうと思ったがとうてい思うように行かないし、かつ余り長過ぎる恐れがあるからやめにした。
二王子幽閉の場と、ジェーン所刑の場については有名なるドラロッシの絵画がすくなからず余の想像を助けている事を一言《いちげん》していささか感謝の意を表する。
舟より上《あが》る囚人のうちワイアットとあるは有名なる詩人の子にてジェーンのため兵を挙《あ》げたる人、父子|同名《どうみょう》なる故|紛《まぎ》れ易《やす》いから記して置く。
塔中四辺の風致景物を今少し精細に写す方が読者に塔その物を紹介してその地を踏ましむる思いを自然に引き起させる上において必要な条件とは気がついているが、何分かかる文を草する目的で遊覧した訳ではないし、かつ年月が経過しているから判然たる景色がどうしても眼の前にあらわれにくい。したがってややともすると主観的の句が重複《ちょうふく》して、ある時は読者に不愉快な感じを与えはせぬかと思うところもあるが右の次第だから仕方がない。(三十七年十二月二十日)
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底本:「夏目漱石全集2」ちくま文庫、筑摩書房
   1987(昭和62)年10月27
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