フこぼれたのをソルスベリ伯爵夫人を斬る時の出来事のように叙してある。余がこの書を読んだとき断頭場に用うる斧の刃のこぼれたのを首斬り役が磨《と》いでいる景色などはわずかに一二頁に足らぬところではあるが非常に面白いと感じた。のみならず磨ぎながら乱暴な歌を平気でうたっていると云う事が、同じく十五六分の所作ではあるが、全篇を活動せしむるに足《た》るほどの戯曲的出来事だと深く興味を覚えたので、今その趣向そのままを蹈襲《とうしゅう》したのである。但《ただ》し歌の意味も文句も、二吏の対話も、暗窖《あんこう》の光景もいっさい趣向以外の事は余の空想から成ったものである。ついでだからエーンズウォースが獄門役に歌わせた歌を紹介して置く。
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The axe was sharp, and heavy as lead,
As it touched the neck, off went the head!
          Whir―whir―whir―whir!
Queen Anne laid her white throat upon the block,
Quietly waiting
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