金を出して馬車などを驕《おご》らねばならないし、それはそれは気骨が折れる、金がいる、時間が費《つい》える、真平だが仕方がない、たまにはこんな酔興な貴女があるんだから行かなければ義理がわるい、困ったなと思っていると、田中君が旅行談を始めた。吾輩に「シェクスピヤ」の石膏製《せっこうせい》の像と「アルバム」をやろうと云うからありがとうといって貰った。それから「シェクスピヤ」の墓碑の石摺《いしずり》の写真を見せて、こりゃ何だい君、英語の漢語だね、僕には読めないといった。やがて先生は会社へ出て行った。これから吾輩は例の通り「スタンダード」新聞を読むのだ。西洋の新聞は実にでがある。始からしまいまで残らず読めば五六時間はかかるだろう。吾輩はまず第一に支那事件のところを読むのだ。今日のには魯国新聞の日本に対する評論がある。もし戦争をせねばならん時には日本へ攻め寄せるは得策でないから朝鮮で雌雄《しゆう》を決するがよかろうという主意である。朝鮮こそ善い迷惑だと思った。その次に「トルストイ」の事が出ている。「トルストイ」は先日|魯西亜《ロシア》の国教を蔑視《べっし》すると云うので破門されたのである。天下の「
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