ろう。それから「ベーコン」が一片に玉子一つまたはベーコン二片と相場がきまっている。そのほかに焼パン二片茶一杯、それでおしまいだ。吾輩が二片の「ベーコン」を五分の四まで食い了《おわ》ったところへ田中君が二階から下りて来た。先生は昨夜遅く旅から帰って来たのである。もっとも先生は毎朝遅刻する人でけっして定刻に二階から天下った事はない。「いや御早う」。妻君の妹が Good morning と答えた。吾輩も英語で Good morning といった。田中君はムシャムシャやっている。吾輩は Excuse me といって食卓の上にある手紙を開いた。「エッジヒル」夫人からこの十七日午後三時にゆるゆる御話しを伺いたいからおいでくだされまじきやという招待状だ。おやおやと思った。吾輩は日本におっても交際は嫌《きら》いだ。まして西洋へ来て無弁舌なる英語でもって窮窟《きゅうくつ》な交際をやるのはもっとも厭《きら》いだ。加之|倫敦《ロンドン》は広いから交際などを始めるとむやみに時間をつぶす、おまけにきたない「シャツ」などは着て行かれず、「ズボン」の膝《ひざ》が前へせり出していてはまずいし雨のふる時などはなさけない
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