いのだから。しかし少々頭がいたいからこれで御勘弁を願おう。四月九日夜。
[#ここで字下げ終わり]
二
また「ホトトギス」が届いたから出直して一度伺おう。我輩の下宿の体裁は前回申し述べたごとくすこぶる憐《あわ》れっぽい始末だが、そういう境界《きょうがい》に澄まし返って三十代の顔子然《がんしぜん》としていられるかと君方はきっと聞くに違いない。聞かなくっても聞く事にしないとこっちが不都合だからまず聞くと認める。ところで我輩が君らに答えるんだ、懸価《かけね》のないところを答えるんだから、そのつもりで聞かなくっては行けない。
我輩も時には禅坊主みたような変哲学者のような悟りすました事も云って見るが、やはり大体のところが御存じのごとき俗物だからこんな窮屈な暮しをして回《かい》やその楽をあらためず賢なるかなと褒《ほ》められる権利は毛頭ないのだよ。そんならなぜもっと愉快な所へ移らないかと云うかも知れないが、そこに大に理由の存するあり焉さ。まず聞きたまえ。なるほど留学生の学資は御話しにならないくらい少ない。倫敦《ロンドン》ではなおなお少ない。少ないがこの留学費全体を投じて衣食住の
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