僕の昔
夏目漱石

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)根津《ねず》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)堀部|武庸《たけつね》

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)[#ここから1字下げ]
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 根津《ねず》の大観音《だいかんのん》に近く、金田夫人の家や二弦琴《にげんきん》の師匠や車宿や、ないし落雲館《らくうんかん》中学などと、いずれも『吾輩《わがはい》は描《ねこ》である』の編中でなじみ越しの家々の間に、名札もろくにはってない古べいの苦沙弥《くしゃみ》先生の居《きょ》は、去年の暮れおしつまって西片町《にしかたまち》へ引き越された。君、こんどの僕の家は二階があるよと丸善の手代みたように群書堆裡《ぐんしょたいり》に髭《ひげ》をひねりながら漱石子《そうせきし》が話していられると、縁側《えんがわ》でゴソゴソ音がする。見ていると三毛猫の大きなやつが障子《しょうじ》の破れからぬうと首を突き出して、ニャンとこちらを向きながらないた。
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 あの猫はね、こっちへ引きこしてきてからも
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