会議室は校長室の隣《とな》りにある細長い部屋で、平常は食堂の代理を勤める。黒い皮で張った椅子《いす》が二十|脚《きゃく》ばかり、長いテーブルの周囲に並《なら》んでちょっと神田の西洋料理屋ぐらいな格だ。そのテーブルの端《はじ》に校長が坐《すわ》って、校長の隣りに赤シャツが構える。あとは勝手次第に席に着くんだそうだが、体操《たいそう》の教師だけはいつも席末に謙遜《けんそん》するという話だ。おれは様子が分らないから、博物の教師と漢学の教師の間へはいり込《こ》んだ。向うを見ると山嵐と野だが並んでる。野だの顔はどう考えても劣等だ。喧嘩はしても山嵐の方が遥《はる》かに趣《おもむき》がある。おやじの葬式《そうしき》の時に小日向《こびなた》の養源寺《ようげんじ》の座敷《ざしき》にかかってた懸物はこの顔によく似ている。坊主《ぼうず》に聞いてみたら韋駄天《いだてん》と云う怪物だそうだ。今日は怒《おこ》ってるから、眼をぐるぐる廻しちゃ、時々おれの方を見る。そんな事で威嚇《おど》かされてたまるもんかと、おれも負けない気で、やっぱり眼をぐりつかせて、山嵐をにらめてやった。おれの眼は恰好《かっこう》はよくないが
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