つ》に違《ちが》いない。飯は食ったが、まだ日が暮《く》れないから寝《ね》る訳に行かない。ちょっと温泉に行きたくなった。宿直をして、外へ出るのはいい事だか、悪《わ》るい事だかしらないが、こうつくねんとして重禁錮《じゅうきんこ》同様な憂目《うきめ》に逢《あ》うのは我慢の出来るもんじゃない。始めて学校へ来た時当直の人はと聞いたら、ちょっと用達《ようたし》に出たと小使《こづかい》が答えたのを妙《みょう》だと思ったが、自分に番が廻《まわ》ってみると思い当る。出る方が正しいのだ。おれは小使にちょっと出てくると云ったら、何かご用ですかと聞くから、用じゃない、温泉へはいるんだと答えて、さっさと出掛《でか》けた。赤手拭《あかてぬぐい》は宿へ忘れて来たのが残念だが今日は先方で借りるとしよう。
それからかなりゆるりと、出たりはいったりして、ようやく日暮方《ひぐれがた》になったから、汽車へ乗って古町《こまち》の停車場《ていしゃば》まで来て下りた。学校まではこれから四丁だ。訳はないとあるき出すと、向うから狸が来た。狸はこれからこの汽車で温泉へ行こうと云う計画なんだろう。すたすた急ぎ足にやってきたが、擦《す》れ
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