と団子二|皿《さら》七銭と書いてある。実際おれは二皿食って七銭|払《はら》った。どうも厄介《やっかい》な奴等だ。二時間目にもきっと何かあると思うと遊廓の団子旨い旨いと書いてある。あきれ返った奴等だ。団子がそれで済んだと思ったら今度は赤手拭《あかてぬぐい》と云うのが評判になった。何の事だと思ったら、つまらない来歴だ。おれはここへ来てから、毎日住田の温泉へ行く事に極《き》めている。ほかの所は何を見ても東京の足元にも及《およ》ばないが温泉だけは立派なものだ。せっかく来た者だから毎日はいってやろうという気で、晩飯前に運動かたがた出掛《でかけ》る。ところが行くときは必ず西洋手拭の大きな奴をぶら下げて行く。この手拭が湯に染《そま》った上へ、赤い縞《しま》が流れ出したのでちょっと見ると紅色《べにいろ》に見える。おれはこの手拭を行きも帰りも、汽車に乗ってもあるいても、常にぶら下げている。それで生徒がおれの事を赤手拭赤手拭と云うんだそうだ。どうも狭い土地に住んでるとうるさいものだ。まだある。温泉は三階の新築で上等は浴衣《ゆかた》をかして、流しをつけて八銭で済む。その上に女が天目《てんもく》へ茶を載《の》
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