次の教場へ出ると一つ天麩羅四杯なり。但《ただ》し笑うべからず。と黒板にかいてある。さっきは別に腹も立たなかったが今度は癪《しゃく》に障《さわ》った。冗談《じょうだん》も度を過ごせばいたずらだ。焼餅《やきもち》の黒焦《くろこげ》のようなもので誰《だれ》も賞《ほ》め手はない。田舎者はこの呼吸が分からないからどこまで押《お》して行っても構わないと云う了見《りょうけん》だろう。一時間あるくと見物する町もないような狭《せま》い都に住んで、外に何にも芸がないから、天麩羅事件を日露《にちろ》戦争のように触《ふ》れちらかすんだろう。憐《あわ》れな奴等《やつら》だ。小供の時から、こんなに教育されるから、いやにひねっこびた、植木鉢《うえきばち》の楓《かえで》みたような小人《しょうじん》が出来るんだ。無邪気《むじゃき》ならいっしょに笑ってもいいが、こりゃなんだ。小供の癖《くせ》に乙《おつ》に毒気を持ってる。おれはだまって、天麩羅を消して、こんないたずらが面白いか、卑怯《ひきょう》な冗談だ。君等は卑怯と云う意味を知ってるか、と云ったら、自分がした事を笑われて怒《おこ》るのが卑怯じゃろうがな、もしと答えた奴があ
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