聯隊《れんたい》より立派でない。大通りも見た。神楽坂《かぐらざか》を半分に狭くしたぐらいな道幅《みちはば》で町並《まちなみ》はあれより落ちる。二十五万石の城下だって高の知れたものだ。こんな所に住んでご城下だなどと威張《いば》ってる人間は可哀想《かわいそう》なものだと考えながらくると、いつしか山城屋の前に出た。広いようでも狭いものだ。これで大抵《たいてい》は見尽《みつく》したのだろう。帰って飯でも食おうと門口をはいった。帳場に坐《すわ》っていたかみさんが、おれの顔を見ると急に飛び出してきてお帰り……と板の間へ頭をつけた。靴《くつ》を脱《ぬ》いで上がると、お座敷《ざしき》があきましたからと下女が二階へ案内をした。十五|畳《じょう》の表二階で大きな床《とこ》の間《ま》がついている。おれは生れてからまだこんな立派な座敷へはいった事はない。この後いつはいれるか分らないから、洋服を脱いで浴衣《ゆかた》一枚になって座敷の真中《まんなか》へ大の字に寝てみた。いい心持ちである。
昼飯を食ってから早速清へ手紙をかいてやった。おれは文章がまずい上に字を知らないから手紙を書くのが大嫌《だいきら》いだ。またや
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