。もう九時だろう」
「今九時十二分ばかりだ」と帯の間からニッケル製の時計を出して見ながら云ったが「おい洋燈《らんぷ》を消せ、障子へ二つ坊主頭が写ってはおかしい。狐《きつね》はすぐ疑ぐるから」
おれは一貫張《いっかんばり》の机の上にあった置き洋燈《らんぷ》をふっと吹きけした。星明りで障子だけは少々あかるい。月はまだ出ていない。おれと山嵐は一生懸命《いっしょうけんめい》に障子へ面《かお》をつけて、息を凝《こ》らしている。チーンと九時半の柱時計が鳴った。
「おい来るだろうかな。今夜来なければ僕はもう厭《いや》だぜ」
「おれは銭のつづく限りやるんだ」
「銭っていくらあるんだい」
「今日までで八日分五円六十銭払った。いつ飛び出しても都合《つごう》のいいように毎晩|勘定《かんじょう》するんだ」
「それは手廻しがいい。宿屋で驚いてるだろう」
「宿屋はいいが、気が放せないから困る」
「その代り昼寝《ひるね》をするだろう」
「昼寝はするが、外出が出来ないんで窮屈《きゅうくつ》でたまらない」
「天誅も骨が折れるな。これで天網恢々疎《てんもうかいかいそ》にして洩《も》らしちまったり、何かしちゃ、つまらない
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