たら、やっぱり立っていた。何だか大変小さく見えた。

     二

 ぶうと云《い》って汽船がとまると、艀《はしけ》が岸を離《はな》れて、漕《こ》ぎ寄せて来た。船頭は真《ま》っ裸《ぱだか》に赤ふんどしをしめている。野蛮《やばん》な所だ。もっともこの熱さでは着物はきられまい。日が強いので水がやに光る。見つめていても眼《め》がくらむ。事務員に聞いてみるとおれはここへ降りるのだそうだ。見るところでは大森《おおもり》ぐらいな漁村だ。人を馬鹿《ばか》にしていらあ、こんな所に我慢《がまん》が出来るものかと思ったが仕方がない。威勢《いせい》よく一番に飛び込んだ。続《つ》づいて五六人は乗ったろう。外に大きな箱《はこ》を四つばかり積み込んで赤ふんは岸へ漕ぎ戻《もど》して来た。陸《おか》へ着いた時も、いの一番に飛び上がって、いきなり、磯《いそ》に立っていた鼻たれ小僧《こぞう》をつらまえて中学校はどこだと聞いた。小僧はぼんやりして、知らんがの、と云った。気の利かぬ田舎《いなか》ものだ。猫《ねこ》の額ほどな町内の癖《くせ》に、中学校のありかも知らぬ奴《やつ》があるものか。ところへ妙《みょう》な筒《つつ》っぽ
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