好きでない。ことに語学とか文学とか云うものは真平《まっぴら》ご免《めん》だ。新体詩などと来ては二十行あるうちで一行も分らない。どうせ嫌いなものなら何をやっても同じ事だと思ったが、幸い物理学校の前を通り掛《かか》ったら生徒募集の広告が出ていたから、何も縁だと思って規則書をもらってすぐ入学の手続きをしてしまった。今考えるとこれも親譲りの無鉄砲から起《おこ》った失策だ。
三年間まあ人並《ひとなみ》に勉強はしたが別段たちのいい方でもないから、席順はいつでも下から勘定《かんじょう》する方が便利であった。しかし不思議なもので、三年立ったらとうとう卒業してしまった。自分でも可笑《おか》しいと思ったが苦情を云う訳もないから大人しく卒業しておいた。
卒業してから八日目に校長が呼びに来たから、何か用だろうと思って、出掛けて行ったら、四国辺のある中学校で数学の教師が入る。月給は四十円だが、行ってはどうだという相談である。おれは三年間学問はしたが実を云うと教師になる気も、田舎《いなか》へ行く考えも何もなかった。もっとも教師以外に何をしようと云うあてもなかったから、この相談を受けた時、行きましょうと即席《そ
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