ツさんじゃが、お嬢さんもお嬢さんじゃてて、みんなが悪《わ》るく云いますのよ。いったん古賀さんへ嫁に行くてて承知をしときながら、今さら学士さんがお出《いで》たけれ、その方に替《か》えよてて、それじゃ今日様《こんにちさま》へ済むまいがなもし、あなた」
「全く済まないね。今日様どころか明日様にも明後日様にも、いつまで行ったって済みっこありませんね」
「それで古賀さんにお気の毒じゃてて、お友達の堀田《ほった》さんが教頭の所へ意見をしにお行きたら、赤シャツさんが、あしは約束のあるものを横取りするつもりはない。破約になれば貰うかも知れんが、今のところは遠山家とただ交際をしているばかりじゃ、遠山家と交際をするには別段古賀さんに済まん事もなかろうとお云いるけれ、堀田さんも仕方がなしにお戻《もど》りたそうな。赤シャツさんと堀田さんは、それ以来|折合《おりあい》がわるいという評判ぞなもし」
「よくいろいろな事を知ってますね。どうして、そんな詳《くわ》しい事が分るんですか。感心しちまった」
「狭《せま》いけれ何でも分りますぞなもし」
 分り過ぎて困るくらいだ。この容子《ようす》じゃおれの天麩羅《てんぷら》や
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