ってしまった。それはあとから話すが、校長はこの時会議の引き続きだと号してこんな事を云った。生徒の風儀《ふうぎ》は、教師の感化で正していかなくてはならん、その一着手として、教師はなるべく飲食店などに出入《しゅつにゅう》しない事にしたい。もっとも送別会などの節は特別であるが、単独にあまり上等でない場所へ行くのはよしたい――たとえば蕎麦屋《そばや》だの、団子屋《だんごや》だの――と云いかけたらまた一同が笑った。野だが山嵐を見て天麩羅《てんぷら》と云って目くばせをしたが山嵐は取り合わなかった。いい気味《きび》だ。
 おれは脳がわるいから、狸の云うことなんか、よく分らないが、蕎麦屋や団子屋へ行って、中学の教師が勤まらなくっちゃ、おれみたような食い心棒《しんぼう》にゃ到底《とうてい》出来っ子ないと思った。それなら、それでいいから、初手から蕎麦と団子の嫌いなものと注文して雇《やと》うがいい。だんまりで辞令を下げておいて、蕎麦を食うな、団子を食うなと罪なお布令《ふれ》を出すのは、おれのような外に道楽のないものにとっては大変な打撃だ。すると赤シャツがまた口を出した。「元来中学の教師なぞは社会の上流にくら
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