う云ったのかね」
「うん」
「それから君は何と答えた」
「何と答えるったって、別に答えようもないから……」
「行けばいいじゃないか」
「行けばいいだろうが、ただはいかれない」
 高柳君は元気のない顔をして、自分の膝頭《ひざがしら》へ眼を落した。瓦斯双子《ガスふたこ》の端《はじ》から鼠色《ねずみいろ》のフラネルが二寸ばかり食《は》み出《だ》している。寸法も取らず別々に仕立てたものだろう。
「それは心配する事はない。僕がどうかする」
 高柳君は潤《うるおい》のない眼を膝から移して、中野君の幸福な顔を見た。この顔しだいで返答はきまる。
「僕がどうかするよ。何《なん》だって、そんな眼をして見るんだ」
 高柳君は自分の心が自分の両眼《りょうがん》から、外を覗《のぞ》いていたのだなと急に気がついた。
「君に金を借りるのか」
「借りないでもいいさ……」
「貰うのか」
「どうでもいいさ。そんな事を気に掛ける必要はない」
「借りるのはいやだ」
「じゃ借りなくってもいいさ」
「しかし貰う訳には行かない」
「六《む》ずかしい男だね。何だってそんなにやかましくいうのだい。学校にいる時分は、よく君の方から金を借
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