いる事がある。今の金持の金のある一部分は常にこの目的に向って使用されている。それと云うのも彼ら自身が金の主《しゅ》であるだけで、他の徳、芸の主でないからである。学者を尊敬する事を知らんからである。いくら教えても人の云う事が理解出来んからである。災《わざわい》は必ず己《おの》れに帰る。彼らは是非共《ぜひとも》学者文学者の云う事に耳を傾けねばならぬ時期がくる。耳を傾けねば社会上の地位が保《たも》てぬ時期がくる」
 聴衆は一度にどっと鬨《とき》を揚《あ》げた。高柳君は肺病にもかかわらずもっとも大《おおい》なる鬨を揚げた。生れてから始めてこんな痛快な感じを得た。襟巻《えりまき》に半分顔を包んでから風のなかをここまで来た甲斐《かい》はあると思う。
 道也先生は予言者のごとく凛《りん》として壇上に立っている。吹きまくる木枯《こがらし》は屋《おく》を撼《うご》かして去る。

        十二

「ちっとは、好《い》い方かね」と枕元へ坐る。
 六畳の座敷は、畳がほけて、とんと打ったら夜でも埃《ほこ》りが見えそうだ。宮島産の丸盆に薬瓶《くすりびん》と験温器《けんおんき》がいっしょに乗っている。高柳君
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