よろしい。――では掘り出した人がテニスをする……」
「強情じゃない事よ。じゃ銅像を掘り出さした方《ほう》がテニスをするの、ね。いいでしょう」
「どっちでも同じでさあ」
「あら、あなた、御怒《おおこ》りなすったの。だから掘り出さした方だって、あやまっているじゃありませんか」
「ハハハハあやまらなくってもいいです。それでテニスをしているとね。指輪が邪魔になって、ラケットが思うように使えないんです。そこで、それをはずしてね、どこかへ置こうと思ったが小さいものだから置きなくすといけない。――大事な指輪ですよ。結納《ゆいのう》の指輪なんです」
「誰と結婚をなさるの?」
「誰とって、そいつは少し――やっぱりさる令嬢とです」
「あら、お話しになってもいじゃありませんか」
「隠す訳じゃないが……」
「じゃ話してちょうだい。ね、いいでしょう。相手はどなたなの?」
「そいつは弱りましたね。実は忘れちまった」
「それじゃ、ずるいわ」
「だって、メリメの本を貸しちまってちょっと調べられないですもの」
「どうせ、御貸しになったんでしょうよ。ようございます」
「困ったな。せっかくのところで名前を忘れたもんだから進
前へ 次へ
全222ページ中119ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
夏目 漱石 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング