を寄せて、ぎらぎらする日をしばらく見つめていたが、眩《まぼ》しくなったので、今度はぐるりと寝返りをして障子《しょうじ》の方を向いた。障子の中では細君が裁縫《しごと》をしている。
「おい、好い天気だな」と話しかけた。細君は、
「ええ」と云《い》ったなりであった。宗助も別に話がしたい訳でもなかったと見えて、それなり黙ってしまった。しばらくすると今度は細君の方から、
「ちっと散歩でもしていらっしゃい」と云った。しかしその時は宗助がただうんと云う生返事《なまへんじ》を返しただけであった。
二三分して、細君は障子《しょうじ》の硝子《ガラス》の所へ顔を寄せて、縁側に寝ている夫の姿を覗《のぞ》いて見た。夫はどう云う了見《りょうけん》か両膝《りょうひざ》を曲げて海老《えび》のように窮屈になっている。そうして両手を組み合わして、その中へ黒い頭を突っ込んでいるから、肱《ひじ》に挟《はさ》まれて顔がちっとも見えない。
「あなたそんな所へ寝ると風邪《かぜ》引《ひ》いてよ」と細君が注意した。細君の言葉は東京のような、東京でないような、現代の女学生に共通な一種の調子を持っている。
宗助は両肱の中で大きな眼をぱ
前へ
次へ
全332ページ中2ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
夏目 漱石 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング