れで宜《よろ》しい。インデペンデントで働きたい人はインデペンデントで遣って行くが宜しい。インデペンデントの資格を持っておって、それを抛《ほう》って置くのは惜しいから、それを持っている人はそれを発達させて行くのが、自己のため日本のため社会のために幸福である。こういうのです。
 繰り返して申しますが、イミテーションは決して悪いとは私は思っておらない。どんなオリヂナルの人でも、人から切り離されて、自分から切り離して、自身で新しい道を行ける人は一人もありません。画かきの人の絵などについて言っても、そう新しい絵ばかり描けるものではない。ゴーガンという人は仏蘭西《フランス》の人ですが、野蛮人の妙な絵を描きます。仏蘭西に生れたけれども野蛮地に這入って行って、あれだけの絵を描いたのも、前に仏蘭西におった時に色々の絵を見ているから、野蛮地に這入ってからあれだけの絵を描くことが出来たのである。いくらオリヂナルの人でも前に外の絵を見ておらなかったならば、あれだけのヒントを得ることは出来なかったと思う。ヒントを得るということとイミテートするということとは相違があるが、ヒントも一歩進めばイミテーションとなるので
前へ 次へ
全47ページ中41ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
夏目 漱石 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング