。その時は色々思案もやりましょう計画も要《い》りましょう。刷新《さっしん》も色々ありましょう。そうして旨《うま》く往《い》けばあの人は成功したといわれる。成功したというと、その人の遣口《やりくち》が刷新でもなく、改革でもなく、整理でもなくても、その結果が宜いと、唯その結果だけを見て、あの人は成功した、なるほどあの人は偉いということになる。ところが騒動が益《ますます》大きくなる。そうすると今まで遣《や》ったその人の一切の事が非難せられる。同じ事を同じように遣っても、結果に行って好ければ成功だというが、同じ事をしても結果に行って悪いと、直ぐにあの人の遣口は悪いという。その遣方《やりかた》の実際を見ないで、結果ばかりを見ていうのである。その遣方の善《よ》し悪《あ》しなどは見ないで、唯結果ばかり見て批評をする。それであの人は成功したとか失敗したとかいうけれども、私の成功というのはそういう単純な意味ではない。仮令《たとい》その結果は失敗に終っても、その遣ることが善いことを行い、それが同情に値いし、敬服に値いする観念を起させれば、それは成功である。そういう意味の成功を私は成功といいたい。十字架の上
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