律とか何とかいうものは要《い》らない、懲役にすることも要らない、そういう意味ではありませんよ。それは能《よ》く申しますると、如何に傍《はた》から見て気狂《きちがい》じみた不道徳な事を書いても、不道徳な風儀を犯しても、その経過を何にも隠さずに衒《てら》わずに腹の中をすっかりそのままに描き得たならば、その人はその人の罪が十分に消えるだけの立派な証明を書き得たものだと思っているから、さっきいったような、インデペンデントの主義標準を曲げないということは恕《ゆる》すべきものがあるといったような意味において、立派に恕すべきであるという事が出来ると、私は考えるのであります。
 しかしこういう風にインデペンデントの人というものは、恕すべく或時は貴《たっと》むべきものであるかも知れないけれども、その代りインデペンデントの精神というものは非常に強烈でなければならぬ。のみならずその強烈な上に持って来て、その背後には大変深い背景を背負った思想なり感情なりがなければならぬ。如何となれば、もし薄弱なる背景があるだけならば、徒《いたずら》にインデペンデントを悪用して、唯世の中に弊害を与えるだけで、成功はとても出来な
前へ 次へ
全47ページ中35ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
夏目 漱石 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング