一人の人がこの両面を有《も》っているということが一番適切である。人間には二種の何とかがあるということを能《よ》くいうものですが、それは大変間違いだ。そうすると片方は片方だけの性格しか具《そな》えていないようになる。議論する人はそういう風になるから、あとがどうも事実から出発していない議論に陥ってしまう。とにかく二通りの人間があるということを言うが、これはこの両面を持っているというのが、これが本統《ほんとう》の事でしょう。いくらオリヂナルの人でもイミテーションの分子を何処かに持っている。イミテーションの側に立って考えると、これはどういう人がイミテーターかというと、要するにイミテーターというものは人の真似をする。それだから自分に標準はない。あるいはあっても標準を立て通すだけの強い猛烈な勇気を欠いているか、どっちかなのである。しかしながらインデペンデントの側の方は、自分に一種の目安《めやす》がある。アイデアル・センセーション、それが個人的になっておって、とにかくそれを言い現わし、それを実行しなければいても立ってもどうしてもいられない。風変《ふうがわ》りではあるが、人からいくら非難されても、御前
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