絵でありました。前の二つは帝国ホテル及び精養軒《せいようけん》という立派な料理屋で見ました。御客様もどうも華やかな人が多い。中には振袖《ふりそで》を着ている女などがおりました、あんな女などに解るのかと思うほどでした。第三に見たのは、これはどうも反対ですね。所は読売新聞の三階でした。見物人はわれわれ位の紳士だけれども、何だか妙な、絵かきだか何だか妙な判《はん》じもののような者や、ポンチ画の広告見たような者や、長いマントを着て尖《とが》ったような帽子を被《かぶ》った和蘭《オランダ》の植民地にいるような者や、一種特別な人間ばかりが行っている。絵もそういう風な調子である。見物人も綺麗な人は一人もいない。どうもその絵はそれで或程度まではチャンと整《ととの》うてはいないと思います。しかし、自分が自分の絵を描いている、という感じは確かにしました。しかしその色の汚い方の絵は未成品《みせいひん》だと思います。それだから同情もありそれを描いた人に敬意も持ちますけれども、わざわざ金を出して内に買って来て書斎に掛けようと思わない絵ばかりでありました。
こういう風に色々違う絵があるからして、その点から出立《し
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