》の上に載《の》せた紅絹《もみ》の片《きれ》へ軽い火熨斗《ひのし》を当てていた。すると次の間からほどき物を持って出て来たお金《きん》さんという女が津田にお辞儀《じぎ》をしたので、彼はすぐ言葉をかけた。
「お金さん、まだお嫁の口はきまりませんか。まだなら一つ好いところを周旋しましょうか」
お金さんはえへへと人の好さそうに笑いながら少し顔を赤らめて、彼のために座蒲団《ざぶとん》を縁側《えんがわ》へ持って来《き》ようとした。津田はそれを手で制して、自分から座敷の中に上り込んだ。
「ねえ叔母さん」
「ええ」
気のなさそうな生返事《なまへんじ》をした叔母は、お金さんが生温《なまぬ》るい番茶を形式的に津田の前へ注《つ》いで出した時、ちょっと首をあげた。
「お金さん由雄《よしお》さんによく頼んでおおきなさいよ。この男は親切で嘘《うそ》を吐《つ》かない人だから」
お金さんはまだ逃げ出さずにもじもじしていた。津田は何とか云わなければすまなくなった。
「お世辞《せじ》じゃありません、本当の事です」
叔母は別に取り合う様子もなかった。その時裏で真事の打つ空気銃の音がぽんぽんしたので叔母はすぐ聴耳《き
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