彼の耳に入った。
「どうしたんだ」
「誰か入ってるの」
「塞《ふさ》がってるのか。好いじゃないか、こんでさえいなければ」
「でも……」
「じゃ小さい方へ入るさ。小さい方ならみんな空《あ》いてるだろう」
「勝《かつ》さんはいないかしら」
津田はこの二人づれのために早く出てやりたくなった。同時に是非彼の入っている風呂へ入らなければ承知ができないといった調子のどこかに見える婦人の態度が気に喰《く》わなかった。彼はここへ入りたければ御勝手にお入んなさい、御遠慮には及びませんからという度胸を据《す》えて、また浴槽の中へ身体を漬《つ》けた。
彼は背の高い男であった。長い足を楽に延ばして、それを温泉《ゆ》の中で上下《うえした》へ動かしながら、透《す》き徹《とお》るもののうちに、浮いたり沈んだりする肉体の下肢《かし》を得意に眺めた。
時に突然婦人の要する勝さんらしい人の声がし出した。
「今晩は。大変お早うございますね」
勝さんのこの挨拶《あいさつ》には男の答があった。
「うん、あんまり退屈だから今日は早く寝ようと思ってね」
「へえ、もうお稽古《けいこ》はお済みですか」
「お済みって訳でもないが
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