かった。行儀よく椅子《いす》に腰をかけていた給仕の女が、ちょっと首を上げて眼をこっちへ向けたので、小林はすぐそれを材料にした。
「貴婦人《レデー》が驚ろくから少し静かにしてくれ。君のような無頼漢《ぶらいかん》といっしょに酒を飲むと、どうも外聞が悪くていけない」
 彼は給使《きゅうじ》の女の方を見て微笑して見せた。女も微笑した。津田一人|怒《おこ》る訳に行かなかった。小林はまたすぐその機に付け込んだ。
「いったいあの顛末《てんまつ》はどうしたのかね。僕は詳しい事を聴《き》かなかったし、君も話さなかった、のじゃない、僕が忘れちまったのか。そりゃどうでも構わないが、ありゃ向うで逃げたのかね、あるいは君の方で逃げたのかね」
「それこそどうでも構わないじゃないか」
「うん僕としては構わないのが当然だ。また実際構っちゃいない。が、君としてはそうは行くまい。君は大構《おおかま》いだろう」
「そりゃ当り前さ」
「だから先刻《さっき》から僕が云うんだ。君には余裕があり過ぎる。その余裕が君をしてあまりに贅沢《ぜいたく》ならしめ過ぎる。その結果はどうかというと、好きなものを手に入れるや否や、すぐその次のもの
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