。同時に何とかして、ゴツンと喰《くら》わしてやりたいような気もした。けれども彼は遠慮した。というよりも、ゴツンとやるだけの言葉が口へ出て来なかった。
「笑談《じょうだん》じゃない」
「本当に笑談《じょうだん》じゃない」と云った小林はひょいと眼を上げて津田の顔を見た。津田はふと気がついた。しかし相手に何か考えがあるんだなと悟った彼は、あまりに怜俐《りこう》過ぎた。彼には澄ましてそこを通り抜けるだけの腹がなかった。それでいて当らず障《さわ》らず話を傍《わき》へ流すくらいの技巧は心得ていた。彼は小林に捕《つら》まらなければならなかった。彼は云った。
「どうだ君ここの料理は」
「ここの料理もどこの料理もたいてい似たもんだね。僕のような味覚の発達しないものには」
「不味《まず》いかい」
「不味かない、旨《うま》いよ」
「そりゃ好い案配《あんばい》だ。亭主が自分でクッキングをやるんだから、ほかよりゃ少しはましかも知れない」
「亭主がいくら腕を見せたって、僕のような口に合っちゃ敵《かな》わないよ。泣くだけだあね」
「だけど旨けりゃそれでいいんだ」
「うん旨けりゃそれでいい訳だ。しかしその旨さが十銭均
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